び~ふぁいる

主に未邦訳の海外ミステリーについて語ります

第6回 アーメル・アンワル その2

 

  前作の事件から数カ月たち、ザックは相変わらずブラールの建材屋で働いています。そんなとき、親友ジャグズの伯父ラッキーにトラブル発生! ラッキーは爽やかコンビに助けを求めます。さて、どうなることやら……。

 

【あらすじ】

 ザックの親友ジャグズの伯父、ラッキー(本名ラクビール)は大のギャンブル好き。しかしポーカーで大負けを喫し、すぐに金を用意できず、家宝のネックレスを渡してしまう。後日金を用意してネックレスを返してもらいに行ったが、相手は返してくれなかった。その相手とは、裏稼業で富を築いたヤクザ者のシャーギル。ラッキーは、ネックレスを取り返してほしいとジャグズとザックに頼む。警察に通報を勧めるザックにラッキーは頑として応じない。それには深いわけがあった。

 

 二百年ほど前、インド北西の地であるパンジャブ地方にランジート・シンがシク王国を創始した。彼の死後は、まだ五歳だった息子のドゥリープが王位を継承して父が所有していたムガル帝国時代から伝わる宝石類を受け継ぎ、それを母親が管理していた。しかしのちにイギリス政府が押収し、明細目録と宝石を照合した。すると、多くの宝石がなくなっていることが判明。ドゥリープの母親が先を見越して仕えの者に宝石を保管させていたのだ。それらの宝石は、いつの日かイギリスに反旗を翻すときの資金源になるはずだった。従僕たちは忠実に宝石を保管したが、そのうちのひとりはラッキーの祖先だった。しかしやがてパンジャブ州は分割され、シク王国の再興は夢に終わった。そんないわくがあるため、警察に届けたらデータベースに入っている明細目録に引っかかってイギリス政府の所有物を盗んだ罪に問われてしまう。さらにはインド政府も所有権を主張する可能性もある。だから警察には通報できないと言うのだ。

 ザックとジャグズは二万ポンドの現金を持ってシャーギルを訪ね、ネックレスを返してもらう。そうしてネックレスはラッキーの手元に戻ったが、それは偽物だった。シャーギルは本物を宝石商のカンに鑑定させて、それが、オークションに出したら桁外れの値がつく歴史的遺物だと知ると、盗品かと疑うカンを息子に命じて殺した。

 

 同じころ、ザックの弟のタリクが男たちに襲われてこん睡状態となる。男たちの真の標的はタリクの友人のボンゴだった。連中のひとりのガールフレンドとボンゴが親しげな口をきいたことで怒って掴みかかってきたが、止めに入ったタリクが彼らの怒りを買ってボコボコにされてしまったのだ。生死をさまよう弟の姿を見て怒りに震えるザック。やったのは誰か調べていくうちに主犯格は、例のガールフレンドと付き合っているダニーという男だとわかる。しかもそのダニーはシャーギルの息子だった。ふたつの出来事が繋がる。そんな折、ボンゴも彼らに襲われて数日後に死亡。ザックは弟の仇を討つため、そしてネックレスを取り返すためにある計画をたてる。その計画には、同じくシャーギルに復讐をしたがっている、ボンゴの従兄のガグズと、宝石商カンの義理の兄トンカも加わった。果たしてザックたちはネックレスを取り返すことができるのか。そしてタリクの運命は?

早くも迷走? 方向性がブレブレ

 前作『Western Fringes』に吹いていた爽やかな風は序盤こそまだ残っていましたが、読み進めていくうちに、そもそも論というか、根本的な問題が浮上してきました。

 そもそも主人公のザックは今回の敵であるシャーギル親子をどうしたいのか。

 作中ではジャグズの伯父のラッキーのネックレス問題と、ザックの弟のタリクを暴行した犯人捜しというふたつの出来事が同時進行しますが、その途中でザックとジャグズは何度も警察に届けよう、いや、やめようという議論を繰り返します。そして悪人のシャーギル親子を捕えたものの、結局自分たちは直接手を下さず、同じくシャーギル親子に恨みを持つ者たち――ガグズとトンカ――に処遇を任せるのですが、そのことでもくよくよと悩み続けるのです。シャーギル一味はおそらくトンカらに殺されるだろう。それだけのことをしたのだから。でもそうなったら彼らにシャーギルを委ねた自分たちも間接的に殺しに手を貸したことになる、ど~しよう……てな具合に。

爽やかさとバイオレンスは相容れず

 もうね……。この手の話でそれを言っちゃったら根幹から揺らいでしまうでしょう。じゃ、ザックが刑務所で、生きるということは闘うことだと学んだ、という設定はなんのため? 事の解決に腕力が絡むことに悩んでしまってはこのストーリーの存在意義さえ問われかねません。作者の言いたことはわかります。ザックは決して物事を暴力で解決することを好んでいるわけではないと強調したいのでしょう。でも彼らが悩んでいる姿を見るのは読者としてもなんとなく後味が悪く、すっきりとしません。それに、モチベーションがそんな風ですから当然アクション・シーンにも熱がこもりませし、読んでいるほうもワクワクとかハラハラ感を感じることができません。このシリーズはこの先どういった方向に向かうのでしょうか。

 ちなみに、ラッキーのネックレスの背景にある歴史については、ちょうど『Midnight at Malabar House』や『カルカッタの殺人』シリーズを読んだあとだったのですっと頭に入ってきました。

『Midnight at Malabar House』でも後半は主人公がパンジャブ州に行ってストーリーの鍵となるネックレスの所有者を発見するのですが、やはりそこにはパンジャブ州の分割(印パ分離独立)という歴史的背景が絡んでいたりします。また、『カルカッタの殺人』を読んでいると、シク教徒がいかにガタイがいいかという描写がたびたび出てきます。本書に出てくるザックのルームメイトのシク教徒、マンジットとバルに威圧感がある、というのも納得!

 

 さて、次回はクラム・ラーマンの『East of Hounslow』ネタバレ大放出!をお送りする予定です。過疎っているブログなのでちょっとやそっとのネタバレはダイジョウブだよねってことで、邦訳刊行直前に全部見せちゃいます。お楽しみに!!

 

(すみません、クラム・ラーマンの回が飛んじゃいまして、第14回に再度入れなおした)