び~ふぁいる

主に未邦訳の海外ミステリーについて語ります

第13回 ミック・ヘロン考察 その5

ゾーイ・ベーム・シリーズ③

『Why We Die』

【あらすじ】

 オックスフォードにある宝石店で強盗事件が発生。店主のスウィーニーは犯人捜しを私立探偵のゾーイに依頼する。ゾーイは強盗犯としてダンスタン三兄弟に目をつけるが、長男のアークルは残忍なクロスボーの使い手だった。関わる人間に次々とクロスボーを放って恐怖に陥れるアークル。ついには依頼人のスウィーニーも恐ろしさのあまりゾーイに依頼の撤回を申し出る。しかし手を引くにはもう遅く、ゾーイにもアークルの魔の手が……。

 一方三兄弟の金庫番である次男バクスターの妻ケイは虎視眈々と兄弟の金を狙っていた。偶然出会ったティムという中年男と世間話をして自分はDVの被害者だと印象づけておき、夫のバクスターを殺害し、金を奪う。案の定ティムはケイがDVの被害者であると証言し、ケイは正当防衛でおとがめなしとなりそうだったが、金を奪われたアークルたちも黙ってはいない。ティムを人質に取って金を要求するが、ケイはあっさりとティムを見捨て、さらにはゾーイをも手玉にとり、逃亡を図る……。

ドタバタ喜劇をはさみつつ、 ラストは女(ゾーイ)VS女(ケイ)のガチンコ勝負!

 メインプロットは非常にシリアスなのですが、途中絡んでくるキャラ――妄想癖のある男ティムや、ケイの父親の呆け老人が事態をかき回してめちゃくちゃ笑わせてくれます。ゾーイ自身は相変わらずクールに調査を進めるのですが、その過程で冷蔵庫に閉じこめられるという窮地に陥ったりと、絶体絶命の大ピンチなのにもかかわらずおっかしくておかしくて!

 ゾーイはケイをアークルに狙われている被害者だと思い、彼女を救うために軟禁されている部屋へ乗りこむ場面がありますが、そのアクションシーンはシビレます! そこへティムが車で乗りつけて三人で逃げる場面は無駄にめっちゃカッコよく描かれているので、その後の珍道中とのギャップがまた笑わせてくれたりします。

 このゾーイ・ベームという女探偵ですが、スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンと重なるところがあります。

 

 たぶん、どちらも〝女〟を特に強調せず、自然体で事件に立ち向かう女性探偵の姿を描いているからかもしれません。そんなことを考えながら読んでいたら、面白いシーンに遭遇しました。ゾーイが車の修理屋に代車を頼んだらフォルクス・ワーゲンが出てきて、それを見たゾーイが「カリフォルニアの女探偵が乗ってる車みたい」と言うシーンがあるのですが、カリフォルニアの女探偵でワーゲンに乗っているといえばキンジー・ミルホーンじゃありませんか。しかもゾーイがその車のグローブボックスを探ったらサンタテレサという町の案内書が出てきます。サンタテレサとはカリフォルニアにある架空の町で、キンジー・ミルホーンの本拠地でもあります。キンジーを知るミステリーファンならば思わずにやりとするところでしょう。

 

 次回はミック・ヘロン考察をお休みさせていただきます。実は過去の記事を整理したりちょこっと手を入れて更新していたらクラム・ラーマンの回が飛んじゃったので、もう一回更新します。