び~ふぁいる

主に未邦訳の海外ミステリーについて語ります

第2回 ニコラス・ペトリ その2

引きつづきニコラス・ペトリのピーター・アッシュ・シリーズをお送りします。

シリーズ三作目『Light it Up』

【あらすじ】

(※大麻コロラド州では合法化されています)

コロラド大麻ビジネスを行っているマクスィーニーが、うつ病に効く新種の大麻株〝KG〟を生みだすことに成功した。今や抗不安薬の市場は百億ドルとも言われている。実用化すれば巨万の富が得られるだろう。それに目をつけたのがラッセル・パーマーという富豪の投資家だった。ラッセルは、行き場をなくした帰還兵や退役軍人を集めた私設傭兵部隊を持っている。その部隊にKGの種を奪えと命令。

その頃ピーターはオレゴンの山中でヘンリーという七十代の退役軍人と知り合い、彼が家族経営している人手不足の警備会社を手伝ってやることに。仕事内容は、ヘンリーと一緒にマクスィーニーの大麻を運んで小売店に卸し、売上金を回収するというものだった。しかし、その仕事の途中ラッセルの部隊の連中五人に襲われ、ヘンリーは死亡。ピーターは四人を仕留めたものの五人目のレナードという男を取り逃がしてしまう。

ラッセルは、ピーターに邪魔されてKGの種を手に入れることができなかったことに激怒し、レナードにジューンを誘拐させて人質にし、彼女とKGの種の交換をピーターに要求する。愛するジューンを奪われて全身の血が沸騰するピーター。彼はジューンを取り戻すことができるのか。そしてKGの種はどこに?

肉を切らせて骨を断つ! ラストの肉弾戦はまさに圧巻!

見どころはなんといってもラストの、レナードという男とピーターの一騎打ち!

舞台は雪が降りつもるコロラドの山中。手持ちの銃の弾を撃ち尽くした二人の男は最後に残された武器を持ってサシで対決します。しかし武器といってもレナードがトマホーク(先住民族が戦闘に用いる手斧)を持っているのに対してピーターが持っているのは釘抜き付きの古いハンマー。当然劣勢に転じるピーターに反してレナードは自信をつけ、距離を詰めてピーターに向かってトマホークを振り上げます。その刃はピーターの腿にざっくりと刺さります。しかしピーターはその瞬間を待っていました。レナードが握るトマホークの柄を掴んで自分の腿にさらに深く食い込ませながらレナードを間近に引き寄せると、その頭にハンマーを振り下ろします。レナードの頭は熟れたスイカのように割れていきます……

見どころはまだまだあります。大麻を輸送中に襲われたとき、正当防衛とはいえ四人を殺害したピーターのために盟友ルイスは弁護士を手配してくれるのですが、その弁護士というのがミランダという名の超セクシーな肉食系女子! ピーターは彼女の車(赤のBMW)に乗って送ってもらう途中レナードに狙われて発砲されますが、ミランダの超絶ドライビングテクニックで難を逃れます。しかし興奮冷めやらぬミランダはその勢いでピーターに迫ります。ピーターはぐっと堪えてジューンへの操を守るのです。

ピーターはジューンと生きていくためにホワイト・ノイズを克服しようとセラピーに通い始めていました。克服するまでは会えないとわかっていながらも、ヘンリーが死んだときには自分を責め、ジューンの声が聞きたくなってつい電話してしまいます。ジューンもピーターのためにジャーナリストとして事件の解決に協力しようとするなど、二人の縁は切れない様子。しかしピーターは結局また事件に巻きこまれ、大切な友人を次々と傷つけられます。悪人と立ち向かえばホワイト・ノイズが暴走します。でもその瞬間は彼にとって唯一生きていると実感できる時間であり、ホワイト・ノイズを手放したくないと思っている自分を認めざるをえなくなるのです。そういう生き方しかできないのであれば一人で生きていくしかない。ピーターはジューンとの決別を覚悟してレナードとの戦いに挑みます。しかし、すべてが終わったあと雪の上で血まみれになって倒れているピーターを発見したジューンは彼を抱きしめ、再びノーマルの世界へと連れもどそうとします。あっちの世界とこっちの世界。その一線上でのピーターの〝彷徨い〟はどうやらもうしばらく続きそうです。

今回のミッデン枠はピーターの海兵隊時代の上官ディクソン中佐。既婚者だが同性愛者であることがばれて家族と別居。扶養手当や娘の養育費の支払いに行き詰まり、軍需品の横流しに手を染めてしまう。その後ラッセルに拾われて汚い仕事を任せられるようになったが、心の中ではラッセルを嫌悪しています。軍人時代はピーターの良き理解者でもあった男で、最後には、ジューンを救え、と言ってピーターの味方をします。

個人的にはピーターの盟友ルイスの動向も気になるところ。〝非合法活動〟で収入を得ていたルイスは第一作目で高校時代の憧れの女性で今はシングルマザーになっているダイナといい感じになり、これからはノーマルの世界で生きていくのかと思いきや、相変わらずピーターのために闇ルートから武器を調達したり、元陸軍のスナイパーだった経験を生かしてピーターのバックアップをしたりしているのですが、今回は脚を撃たれて大怪我を負ってしまいます。命に別状はなさそうですが……。

このルイス、あっちこっちでホークと言われてます(笑)。本家のホークはもう人間を超越していて、この世に一人しかいない〝ホーク〟という種の存在になっていますが、その点から言えばルイスは全然人間です。ルイスとホーク関連のレビューの一部を拾ってみたので載せておきますね。

 『銃撃戦、カーチェイス、肉弾戦、そしてピーターの軍隊時代の暗い過去などが躍動感溢れるストーリーに彩どりを添えている。友人のルイスや、前作『Burning Bright』から登場しているジャーナリストのジューンとの絆も見どころだが、特に、一見人当たりのいい男だが敵に回すと恐ろしいルイスとピーターのコンビは、スペンサー・シリーズのホークとスペンサーを彷彿とさせる。本作『Light It Up』は質の高いアクション小説であり、これからもまだまだストーリーが広がっていく余地やキャラクターが成長していく伸びしろがある――Milwaukee Journal Sentinel』

ロバート・パーカーのスペンサーのように、ピーターは独立心が旺盛で自己完結型の人間であり、時に抑制できなくなるほどのパワーを内に秘め、さらにはスペンサー同様、非常に有能な友人を持っている。トラブルに巻き込まれ型のキャラクターではあるが、なんとも親しみ易く、彼が行う〝悪人退治〟に読者は惹きつけられてしまう。本作は、ノンストップのアクションに加え、マリファナ・ビジネスという旬の話題を扱いながらクライマックスへと盛り上がり、ラストでピーターと悪人のサシの対決をむかえる――Library Journal』

 

 

さて、次回は今や飛ぶ鳥を落とす勢いの作家、SA・コスビーについて語ります。お楽しみに!